今回からはいよいよ「チャン・ノクス(張緑水)」の登場だ。
(※ 先に、韓国三大悪女とは? と『女人天下』チョン・ナンジョン編をお読みいただくと、これからの説明がわかりやすくなります)
チャン・ノクスは、10代国王の燕山君(ヨンサングン)の側室として宮廷入りし、暴政を敷いた王と一緒に日夜享楽にふけり、民衆から憎悪され三大悪女に名を連ねた希代の悪女と呼ばれた。(韓ドラここが知りたい!表の「韓国歴史年表」と「朝鮮王朝系図」を参考に)
彼女を描いた作品には、1995年にKBSから放送されたドラマ「張緑水(チャン・ノクス)」がある。他にも、韓国で空前のヒットを飛ばした映画「王の男」にも登場している。「王の男」は、繰り返し上映されている人気の演劇「爾(イ)」が原作で、チャン・ノクスより、燕山君と芸人コンギル、チャンセンとの愛憎を中心に描いている。残念ながら、どれも現在、日本では動画配信されていないが、「王の男」についてはこれまで繰り返し配信されいている。配信があればナビコンに登録されるので、時間を置いてナビコンで「王の男」を検索するで確認してほしい。
この後紹介する「チャン・ノクス」の悪女ぶりについては、史実と、今後配信の可能性が高いドラマ「王の男」などから検証していくことにしよう。
さて、ノクスであるが、父は忠清道文義県令を勤めた張漢弼で、母は妾だった。そのためノクスは、奴婢として育った。奴婢という身分的な限界、そして妾の子ということのため、いつも蔑まれ差別されて暮さなければならなかった。これを嫌ったノクスはやがてキーセンになる。この境遇は、前回まで紹介したチョン・ナンジョンの境遇とよく似ている。ナンジョンと違うところは、ノクスは徹底的に女の武器を利用したことだ。ナンジョンもその美貌で男を虜(とりこ)にしたが、どちらかといえば姦計(かんけい=悪だくみ)でのしあがった感がある。
(当時の身分制度についてはドラマで知る韓国の歴史-朝鮮王朝豆知識を参照)
とまれ、ノスクは生きるためにはその身も売ったし、家僕と結婚して息子を生んだりもしている。絶世の美女だったナンジョンに比べ、ノクスはさほどすぐれた美形ではなかったが、どうやら男好きのする容貌だったらしく、加えて、歌舞を含めた多方面の芸術分野に天才的な才能を兼備していた彼女は、超売れっ妓キーセンとなった。事実、国王の燕山君との出会いも、彼女のその類まれな芸術分野の才能の噂が宮廷にまで伝わり、それを聞いてノクスにあった燕山君がひと目で気に入り入宮させたのだ。(キーセンについては『女人天下』チョン・ナンジョン編③後半部の「キーセンとは…」を参照)
燕山君は入宮させたノクスを、従四品にあたる“淑媛”の位を与えいつも彼女と共にいた。また、1503年には従三品にあたる“淑容”にしている。
≪ 女官の位 ≫
宮廷に使える女官は嬪(ピン、正一品)・貴人(クィイン、従一品)・昭儀(ソイ、正二品)・淑儀(スギ、従二品)・昭容(ソヨン、正三品)・淑容(スギョン、従三品)・昭媛(ソウォン、正四品)・淑媛(スグォン、従四品)などで、正一品から従四品までが王の側室。尚宮(サングン)を始めとする正五品以下は、側室ではなく職務に従事する女官たちであった。歴史ドラマで“○○嬪(ピン)マーマ”や“○○尚宮(サングン)”というのはこういう身分の呼称なのだ。
ここで、ノクスを知るため10代国王の燕山君についてもう少し触れておこう。
燕山君は、ナンジョンで登場する中宗王の異母兄にあたる。王朝の名国王であった第9代国王の成宗の長子で、母は淑儀尹氏。幼くして母を失った為に情愛に薄い少年期を過ごしている。そのせいか、粗暴直情の傾向にあったが、7歳にして世子(セジャ=後継国王候補)となり、成宗の死去に伴い18歳で即位している。
即位当時は父である先王の遺志を継ぎ、無難に政を進めていたが、生来の学問嫌いや他者からの忠言に耳を貸さない燕山君は次第に馬脚をあらわすことになる。彼は特に先王・成宗の教えを説いたり、やたらと道義だ、勉学だ、と口やかましい士林派に憤懣を抱き始める。これに乗じたのが士林派と敵対する勲旧派だった。勲旧派の一派は燕山君に上手く取り入り、士林派の追放断罪を始めさせる。そうして燕山君は、戌午士禍と甲子士禍という士林派を断罪する粛清を二度も実行している。朝鮮王朝で二度も、士林派の皆殺しとも呼ばれる残酷な士禍を繰り返したのは燕山君だけだった。
こうして口やかましい臣下がいなくなり、燕山君のやりたい放題の暴政という“火に油”を注いだのがチャン・ノクスだったのだ。次はどうなるのか?
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★「歴史ドラマ」を楽しむ-韓国三大悪女-『王の男』チャン・ノクス編①
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Photo by (c)Tomo.Yun (yunphoto.net)
キャスト: カム・ウソン(チャンセン)、チョン・ジニョン(燕山君)、カン・ソンヨン(チャン・ノクス)、イ・ジュンギ(コンギル)
原作:キム・テウンの戯曲(爾=イ)、脚本:チェ・ソクファン、監督:イ・ジュニク
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